活性酸素を減らすと長寿になるのか?

Reactive oxygen species (ROS): superoxide anion, hydroxide ...

活性酸素は老化の原因と言われて久しいですがこの記事では活性酸素が増えると寿命が短くなるのか寿命の観点から科学的に検証してみたいと思います。

長寿な動物ほど活性酸素レベルが低いという事実

まずネズミから牛など異なる動物間で活性酸素の多さによって寿命との関連をみた報告があります[1]。

下の図のAでは横軸が死ぬまでの期間で縦軸が活性酸素の量を表していますが、一番寿命が長いのが牛で一番短いのがマウスやハムスターなのがわかります。

この寿命の長さと活性酸素が逆相関していることが分かるため活性酸素が多いほど寿命が短くなるということが言えます。

ミトコンドリアにおける活性酸素量と動物種の寿命の関係 Sohal RS et al. [1]

ちなみに活性酸素のほとんどがミトコンドリアで発生するため最も活性酸素のダメージを受けやすいのがミトコンドリアです。じゃあミトコンドリアで発生する活性酸素を減らせば寿命が伸びるのではないかという仮説が頭をよぎるわけです。

ミトコンドリアの活性酸素を消去するカタラーゼを強制発現させたネズミは長寿になる[2]のでやはりミトコンドリア内の活性酸素は寿命に関係していると言えます。

長寿になるためには活性酸素は完全に消去すべきか?

今までとにかく活性酸素は老化の原因だと言われてきましたが完全に消去するのではなく軽度の活性酸素(ROS)を発生させておくことは逆に寿命を延ばすことが分かってきました[3]。

一般にミトコンドリアは取り込んだ酸素の2%を活性酸素として放出しますが、線虫の実験でこのROSはミトコンドリア呼吸を阻害しHIF-1  (低酸素誘導因子)を活性化します[3]。このHIF-1は活性酸素量を調節する働きがあり適度なROS刺激を調整していると考えられます。

山岳地帯で暮らすなどの低酸素環境ではこのHIF-1が亢進すると考えられますが限度を超えると活性酸素が増え解糖系を亢進させて酸素のいらない糖を分解するエネルギー体質に変わっていくため長寿にはHIF-1の適度なバランスが大切だと思います。

このように活性酸素やストレスなど軽度な刺激が免疫や寿命を延ばす現象を『ホルミーシス』と言い、特にミトコンドリアのホルミーシスを『ミトホルミーシス』と呼んでいます。

まとめると、ミトコンドリア内の活性酸素レベルが低いほど長生きする傾向がみられるが、完全に消去するよりも軽度の活性酸素を与えた方がホルミーシス理論により長寿になるということになります。

参考文献:

  1. Oxidative stress, caloric restriction, and aging. Sohal RS et al., Science. 1996 Jul 5;273(5271):59-63.

  2. Extension of murine life span by overexpression of catalase targeted to mitochondria. Schriner SE et al., Science. 2005 Jun 24;308(5730):1909-11. Epub 2005 May 5.

  3. Feedback regulation via AMPK and HIF-1 mediates ROS-dependent longevity in Caenorhabditis elegans. Hwang AB et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2014 Oct 21;111(42):E4458-67. doi: 10.1073/pnas.1411199111. Epub 2014 Oct 6.

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